

子どもたちはどのように「読み」始めるのか
田縁 眞弓 立命館小学校 英語科アドバイザー
文字指導や読みの指導は、その複雑さゆえに子どものやる気をそぎ、「英語嫌い」をつくりかねない、との理由から日本では慎重に扱われています。これは特に、2011年より5、6年生に英語が導入される公立小学校において懸念されていることです。文字指導や読みの指導に対する危惧は、単なる指導者側の思い込み、杞憂なのでしょうか、それとも現実的にどういった弊害をもたらすものなのでしょうか
さしたる読みの指導もしていないのにいつの間にか英語が読めるようになっていた、という子どもを指導したことがある先生もいらっしゃるでしょう。このような子どもたちは、適切なレベルかつ面白い内容の本を数多く読んでもらっていたり、過去に何度も見たことのある単語(文字)を覚えていたりすることによって読み方を身につけているのです。しかし「読み」の習得方法は子どもによって異なります。必ずしも自然には習得できない大多数の子どもたち取っては、様々な読み書きの指導に基づいた、骨組みのしっかりした支援が必要なのです(Cameron, 2007)。
子どもたちは一体どのように識字能力を身につけ「読み」始めるのか、というケーススタディとして、教科として英語を取り入れている私立小学校での指導例をご紹介したいと思います。特に読みの指導法に対する子どもたちの様子ならびに、読む力の評価について見ていきましょう。
本小学校では基本的に、子どもたちはかなりの冊数の本を授業中に読んでもらっています。初年度で見てみますと、子どもたちがふれる本は30冊を超え、そのどれもが、子どもたちの発達段階と興味を基に慎重に選ばれたものです(30冊という数は、授業3回につき1冊に相当)。授業においては、様々なタイプのリーディングスタイルが取り入れられています。例えば、教師による読み聞かせで児童は聞くのみ、といったストーリーテリングから、様々な質問に答えたり教師と一緒に音読したり、といった活動を含むシェアードリーディングなどです。その提示の仕方も、実際に子どもたちが教師の周りに座るアナログな読み聞かせから、電子黒板を使ったデジタルな読み聞かせもあります。
読み聞かせのようなトップダウンの指導と同時に、子どもたちには、ボトムアップのフォニックス指導も行います。Cameron (2007)は、推奨するフォニックス指導法に関して以下のように述べています。
音節の頭に現れる子音、または単音節の子音に子どもの意識を向けさせることからはじめ、その文字と音を認識するようなゲーム、例えばその音を持つ文字を本の中から探し出させたり、その文字を書く練習をさせたりすることにより、音と読み・書きを互いに補完していく。フォニックス指導においては、活動を子どもにとって意味のあるものにすること、また子どもがすでに知っていることと結びつけることが重要なのである。(pg.149)
フォニックス指導はあくまでも「読み」につなげるための指導であることから、授業の中にあっては、主活動ではなく、他のアクティビティ(リスニングあるいはライティング)と統合した形で、10分以内で終わるものとして取り入れてきました。
さらに、大きなきっかけを与えてくれたのは、子どもたちの「暗唱」する力です。本小学校では、覚えやすいリズムを取り入れた本を「聞く」機会をふんだんに児童に与えるようにしています。これにより、教師が文を見せながら読む際に児童も一緒に「読み」始めます。この活動は子どもたちに「読める」という自信を与えてくれます。正確な意味では「読んでいる」と言えないかもしれませんが、読み方を学ぶ最初の一歩となることには間違いありません。
中でも "The lady with the alligator purse"、 "Goldilocks and three bears" (Jazz Chants Fairly Tales, Oxford)などは特に子どもたちのお気に入りで、多くの子どもが、文字を見ながら唱えることで「読めるようになった!」という自信を持ち始めました。
さらに次の段階として、児童に絵本(Story Street, Pearson Longman)を渡しました。この活動も、2人に1冊渡して1ページずつ音読させたり、1人で音読させたり、また読み終えた本の感想を書いて発表させたりといった様々な活動を工夫しています。現在では、数回に1度の授業内で7~10分程度これらのグレイデッド・リーダーを読み、純粋に「本を読むことを楽しむ」時間としています。児童は黙読であれ音読であれ、自分の意思で好きなように好きな本を読み、それが読む力を養う上で効果を上げています(Krashen, 2004)。
そうして培われた読む力を評価したとき、対象となる3年生全員が、読む際に左から右へ目を動かす、それぞれの単語を言おうとする、といった意味で、3年生終了時には、本を「読み」始めていました。さらに18ヶ月の指導を経て、75%の児童が1冊60語程度の本を読めるようになっています(田縁, 三ツ木, 岡本, 2007)。
次に1冊73語の本(Developmental Reading Assessment, 2003)を基準として、子どもたちの読む力を評価したところ、読みの指導が2年終了した段階で、ほぼ全員が音読という意味での読みを始め、内容理解に関してもインタビュー形式での質疑応答を通しかなりの読解力を示せるようになっていることがわかりました。
以上は私立小学校での実践を取り上げた研究報告であり、一般化するには無理がありますが、この実践から明らかになってきたことは、体系だった読みの指導が「英語嫌い」を作るよりむしろ「英語」学習に対しての達成感や自信を与える要素が強いということです。特に対象が小学校高学年の場合、すでに思春期初期に入る児童が消極的になる、ゲームや歌、チャンツ、ロールプレイなどの声を出したり体を動かしたりする活動をこえて「英語が読めること」で広がる指導内容、特にその知的レベルに合わせたアクティビティの数々を考えると「読めること」の意義は大きいと思われます。
今後は、どのような「読みの指導」が児童に対して行われるべきか、どういった体系的なカリキュラムが望ましいのか、またそれによって培われた力が、児童の英語によるコミュニケーション力あるいは英語運用力の向上にどう貢献できるか、などという点についてはさらなる議論や研究を重ねる必要があるでしょう。
参考文献
L. Cameron (2007) Teaching Language to Young Learners: Cambridge University Press
S. Krashen (2004) The Power of Reading: Insights from the Research 2/e: Heinemann
田縁 眞弓
立命館小学校英語科アドバイザー。教育コンサルタント、また講師トレーナーとして大学および教育委員会で小学校英語活動の教師育成および指導に取り組む。Boost! シリーズエディター。