

皆さんは小学生の英語指導にどのような教材や教具をお使いでしょうか。
昨今の近代技術の発達とともに、DVD、電子ボードなど様々な教具を教育、特に語学教育の現場で使用することが可能となりつつあります。そんな中、私立小学校の5年生を対象にiPodを導入した指導実践をここにご報告したいと思います。
2008年秋、小学校教育における新たな試みの一つとして、立命館小学校では英語教育のクラス外での自律学習を促進する目的で、iPodを使ったカリキュラムの開発がなされました。120名の5年生を対象に配布されたiPodを用いた学習目的は、聞き取りとスピーキングにおける子供の英語力を授業内容と関連付けしつつ促進することであり、特に、学校行事として予定されていた立命館アジア太平洋大学研修(外国人学生との英語による交流活動)に向け、そのプログラムが円滑に行われるようなスピーキング力を構築すること、および1月の実用英語検定受験(5級以上を全員受験)に合格できる力をつけることを主だった目的としたものです。iPodのコンテンツ作成にあたっては、一般的に商業化されているポッドキャストなどを使用することなく、現場の指導教師たちが子供たちの日々の英語指導に関わるものとして、オリジナルの内容を子供の目線に立ち興味を引き付ける形に作成しました。そのことによって、児童が親しみを感じながら何度もコンテンツを聞いたり見たりしてくれることを狙ったものです。
さて、最初にiPodが配布されたのは2008年の11月で、それは児童たちが4日間の、立命館アジア太平洋大学(APU)キャンプ参加日程を含む3週間の貸与でした。コンテンツには、3つのビデオ映像(英語科指導教員による会話のスキットサンプルなど 各5分以内)、5つのオリジナルストーリー(各100~120ワード)、練習用の音声付きパワーポイントスライド(会話のQ&A、100枚程度)、歌(We are the World.)が含まれました。配布前後に行われた児童の英語学習に対するモチベーションに与えるiPod使用に関するアンケート結果に大きな意味ある変化は見られなかったものの、大多数(92%)の児童から今後さらにiPodを使用した英語学習を継続したいという意思があることが確認できました。さらに、そのキャンプの期間中は移動時のバスや列車の中で常に機会を見つけては児童たちがiPodを楽しんで使用している様子が観察できました。
いったん回収したiPodの2回目の配布は12月から1月の冬休みにかけて行われました。コンテンツには、第1回プロジェクトの内容以外に、英検でのリスニングスコアを上げることを目的として英検協会の許可を得た上で3回分の過去問(2級から5級まで)および3学期の英語授業で使う教材(中学2年生の教科書より
ストーリー2話)が加えられました。英検問題に関しては何度も聞き返して答えがわかった時点で書くようにといった指示を与えた上で解答用紙を配布、後者に関しては、あらかじめシャドーイングやRead/LookUp/Sayといった内在化のための練習法を教室で指導した上、簡単なワークシートを冬休みの宿題として配布しました。
その後、1月に学校で団体受験した初めての英
検の結果は、我々の予想をはるかにしのぐ、3級から5級まで(帰国子女2名を除く5年生全員118名が受験)全員が合格(3級6名、4級9名、5級103名)というものでした。特に、そのリスニング力は、いずれの級においてもほぼ9割以上といった強い力を発揮しました。中でも103名が受験した5級は、リスニングのパート3の10問で平均が98%正解という高い値となりました(表参照)
この結果はもちろんiPod導入によるものだけではなく、あくまでも3年生編入時から2年9か月重ねられた児童の英語学習によるものであるのですが、我々は、こうして直前におこなったiPodの導入が、リスニング活動を教室外でも確保できるチャンスを与え、児童の動機付けに大きく影響したと考えています。
iPodの様々な機能の中には、音源だけではなく、文字を見せたり映像を伴ったりという視聴覚教材として使用できる要素が多く含まれます。それらが、今回のようにタスクを中心とした教室外の活動をささえる教具となったことは間違いないでしょう。また、iPodが世界中の若者間で人気のオーディオ機器であるだけではなく、方法さえわかればコンテンツの内容が自在に手軽に変更できる点においても英語教具としての優秀な点として上げられます。さらに、iPodを導入するにあたって我々が認識すべきは、今の子供たちは50年、いや20年前の私たちが子供だった時代とは大きく違うということです。コンピューター、携帯電話、eメール、ビデオゲームなどが毎日の生活に不可欠な世界に生きている彼らは「デジタルネィティブ」と呼ばれ、情報を素早く手に入れ、同時にその情報を処理することに慣れています。そのことが、iPodのような機器の使いこなしを、我々が思う以上に簡単にしたのかもしれません。
ただもちろん、その価格ゆえに現場の先生方にはなかなか手が出ないといった点、また、それとともにこのようなプロジェクトを可能にするには、児童の英語レベルのみならずその興味や認知レベルを十分に理解した教師のクリエィティビティがコンテンツの作成上必至のものとなり、その作成にも時間を要するといった点で、今後広く一般化されるには課題となるかと思われます。
大学生などの成人学習者に対するiPod導入の研究は昨今盛んになりつつありますが、こうした小学校児童のiPod使用に関しての先行例はほとんど見られません。今後さらに研究が進められることで、将来的に児童の英語学習に対してのこのような近代技術を駆使した機器がもたらす影響や可能性は大きく広がっていくのではないでしょうか
田縁 眞弓
立命館小学校英語科アドバイザー。教育コンサルタント、また講師トレーナーとして大学および教育委員会で小学校英語活動の教師育成および指導に取り組む。Boost! シリーズエディター。
シャヒード・ルパニ
10年以上に渡り、様々な年齢層を対象とした英語教育に携わる。立命館小学校国際担当教諭。カリキュラム・ディベロップメントはじめ、教室活動におけるテクノロジーの応用など、幅広い分野で才能を発揮している。